資産の監査では「過大計上」のリスクに注意する

前回の記事では、監査人が確かめる経営者の主張を「アサーション(監査要点)」と呼ぶことを解説しました。今回はその応用編として、資産の監査ではどのアサーションが重視されるのかを見ていきます。

資産の監査を理解する一つの切り口は、「資産の過大計上」に注意を向けることです。資産が大きければ会社の財政状態は良く見え、架空売上を計上すれば売掛金も同時に膨らみます。費用を不適切に資産に付け替えれば利益も増えます。ただし、すべての資産や企業で同じリスクが高いわけではなく、個別の取引や内部統制に応じて監査上の重点は変わります。

そのため、資産の監査で特に重視されるのが次の2つのアサーションです。

  • 実在性:計上されている資産は、期末日に本当に存在するか
  • 評価(正確性・評価と期間配分):資産は適切な金額で計上されているか(回収できない債権、価値の下がった資産が過大なまま残っていないか)

これに加えて、会社がその資産を本当に保有しているかを問う権利と義務も重要です。

テストの方向は「帳簿 → 証拠」

過大計上の検証では、帳簿に載っている記録を出発点に、その裏付けとなる請求書や契約書、外部証拠までたどる方法が有効です。これをバウチング(vouching)と呼びます。例えば固定資産台帳に載る設備を抽出し、現物や取得書類と照合します。ただし、帳簿から始めるだけでは「未計上の資産」の発見には向かない点に注意が必要です。

次回解説する負債では、この方向が逆になります。この「テストの方向」の違いを押さえると、資産と負債の監査の違いがすっきり理解できます。

勘定科目別に見るアサーションと監査手続

現金及び預金

現金預金は、金額は確定しやすい一方で、不正(横領や架空残高)の対象になりやすい科目です。主に確かめるのは実在性と権利と義務です。

代表的な手続は、金融機関への残高確認です。監査人が確認依頼の送付・回答の受領を適切に管理し、期末残高のほか、借入金や担保などの情報も確認します。会社を経由せず独立した回答を得ることにより改ざんリスクを低減できますが、回答の真正性や対象口座の網羅性は別途検討が必要です。手許現金は必要に応じて実査し、銀行勘定調整表で帳簿残高と銀行残高の差異の内容を確かめます。

売掛金

売掛金は、架空売上や売上の前倒し計上に伴って過大計上されることがあるため、事業の状況によっては重要な監査対象となります。

実在性などを確かめる方法の一つが、取引先への残高確認です。未回答の場合には、リスクの内容も踏まえ、入金記録や出荷記録、契約書などによる代替手続を検討します。差異がある場合は原因を調査します。期末日後の入金の確認も有用ですが、入金があった事実だけで期末残高の適切性や売上取引の実態がすべて立証されるわけではありません。

評価については、確認だけでは十分ではありません。取引先が「残高は合っている」と回答しても、その会社が支払能力を失っていれば回収はできないからです。そこで年齢調べ(滞留期間の分析)、得意先の信用状況、過去の貸倒実績などを踏まえ、貸倒引当金が十分に計上されているかを検討します。

あわせて、期末日前後の売上計上を確かめるカットオフ・テストにより、翌期の売上が当期に前倒しされていないか(期間帰属)も確認します。

監査対応のために準備したい資料

売掛金年齢表、売掛金残高の取引先別明細、貸倒引当金の算定資料、期末日前後の出荷・検収一覧、入金消込表が代表例です。特に、期末日後に入金された金額と期末売掛金との対応関係を説明できることが重要です。

有形固定資産

有形固定資産では、実在性、権利と義務、評価が主なアサーションです。

実在性は、重要な資産について現場に赴いて実査し、固定資産台帳と照合します。不動産であれば登記簿謄本などで所有権を確かめます。当期の増加分については、契約書や請求書を閲覧し、本来は修繕費として費用処理すべき支出が資産計上されていないか(資本的支出と収益的支出の区分)も検討します。

評価では、減価償却費の再計算に加え、近年特に重要性が増しているのが減損の検討です。収益性が低下した資産グループについて、減損の兆候の有無、将来キャッシュ・フローの見積りの合理性を確かめます。将来予測を含むため、経営者の見積りに偏りがないかを職業的懐疑心をもって検討する領域です。

固定資産の網羅性も検討する

固定資産の監査は実在性・評価だけではありません。設備投資の稟議書や建設仮勘定の明細、除却・売却記録も確認し、取得した資産の計上漏れや、使用を中止した資産が台帳に残り続けていないかを検討します。

有価証券・投資

有価証券は、保管先の証券会社や信託銀行への確認などを通じて、実在性や権利を確かめます(現物がある場合は実査も検討します)。評価では、市場価格を参照できる有価証券は適用会計基準に沿って価格と帳簿価額の関係を検討します。非上場株式や関係会社株式については、投資先の財政状態や実質価額の低下等を踏まえ、評価損の計上要否を検討します。具体的な取扱いは有価証券の区分や適用会計基準により異なります。

「網羅性」も無視はできない

資産では過大計上が重要な論点になることが多いものの、網羅性も無視できません。例えば、預金口座の一部が帳簿に載っていない(簿外口座)ケースや、リース取引の会計処理漏れが考えられます。これらの検討では、総勘定元帳だけでなく、金融機関との取引先一覧や契約書等を起点に、計上漏れを調べる発想が必要です。リースの認識・表示は適用会計基準に従って判断します。

まとめ:資産の監査は「本当にあるか」「その価値はあるか」

資産の監査では、帳簿に計上された金額を起点に、「本当に存在するか(実在性)」「会社のものか(権利と義務)」「その金額の価値があるか(評価)」を外部証拠や現物で確かめていきます。経理部門としては、確認状への協力や台帳と現物の一致、減損や引当金の見積り根拠の文書化を平時から整えておくことが、円滑な監査対応につながります。

関連記事: 【監査の基礎】会計監査は何をしているのか(アサーションとリスク・アプローチ) / 【監査の基礎】負債の監査で確かめるアサーション

参考資料: 日本公認会計士協会「監査実務指針等」(監査基準報告書315・505・540等) https://jicpa.or.jp/specialized_field/publication/kansa/

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