前回のコラムでは、破産手続開始決定を受けた全東信(大阪市)が少なくとも20年前から粉飾決算を続けていた疑いがあるという事件を題材に、会社法監査の義務についてご説明しました。この事件に関連して、経営者や経理担当者の方から時折いただくのが、「うちには監査役がいるので、監査は受けているのではないか」というご質問です。

結論から申し上げると、監査役による監査と、監査法人(会計監査人)による監査は、法律上も実務上もまったく別のものです。本コラムでは、混同されがちなこの二つの「監査」の違いを整理します。

監査役の監査とは──経営者を監視する「社内の機関」

監査役は、株式会社の機関の一つであり、取締役の職務の執行を監査する役割を担います(会社法第381条)。その監査は、大きく「業務監査」と「会計監査」に分かれます。業務監査とは、取締役の職務執行が法令・定款に適合しているかを監視するものであり、取締役会への出席、重要書類の閲覧、子会社調査などを通じて行われます。会計監査とは、計算書類等が会社の財産・損益の状況を適正に表示しているかを検証するものです。

重要なのは、監査役に資格要件がないという点です。公認会計士である必要はなく、実務では経理経験のない社内出身者や、オーナーの親族が就任しているケースも少なくありません。また、非公開会社では定款の定めにより監査役の権限を会計監査に限定することも可能であり(同法第389条)、監査役監査の実効性は会社によって大きな差があるのが実情です。

監査法人の監査とは──独立した「職業的専門家」による検証

一方、会計監査人による監査は、公認会計士または監査法人という国家資格を有する職業的専門家が、会社から独立した立場で、計算書類等を監査するものです(会社法第396条)。資本金5億円以上または負債総額200億円以上の「大会社」には、この会計監査人の設置が義務づけられています(同法第328条)。

会計監査人の監査は、一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠して実施されます。具体的には、金融機関への預金残高の直接確認、得意先への債権残高の確認、棚卸資産の実地棚卸への立会、証憑書類との突合といった手続を、リスク評価に基づいて体系的に行います。前回のコラムで触れた預金残高の水増しのような粉飾は、まさにこの残高確認手続によって検証される領域です。さらに、監査法人には独立性の規制や品質管理体制の整備が法令上求められており、監査調書の作成や審査といった組織的な品質管理のもとで監査意見が表明されます。

二つの監査の違いの整理

両者の違いは、次のように整理できます。

監査役の監査会計監査人(監査法人)の監査
位置づけ会社の内部機関会社から独立した外部の専門家
資格要件なし公認会計士・監査法人に限定
監査の範囲業務監査+会計監査会計監査(計算書類等)
監査の方法取締役会出席、書類閲覧等監査基準に基づく残高確認、実査、立会等
設置義務取締役会設置会社等大会社等

つまり、監査役の監査は「経営者の職務執行を社内で監視する仕組み」、会計監査人の監査は「決算書の信頼性を外部の専門家が保証する仕組み」であり、両者は代替関係ではなく補完関係にあります。だからこそ会社法は、大会社に対して監査役等と会計監査人の両方の設置を求めているのです。

なお、両者は連携も予定されています。会計監査人は、職務遂行の過程で取締役の不正行為等を発見した場合、監査役に報告する義務を負い(同法第397条)、監査役は会計監査人の監査の方法と結果の相当性を判断します。監査役監査と会計監査人監査が両輪として機能してはじめて、粉飾を許さないガバナンスが成立します。

全東信事件が示す教訓

全東信のような大規模かつ長期の粉飾が成立してしまう背景には、外部の職業的専門家による監査の目が十分に機能していなかった可能性が指摘できます。監査役が置かれていたとしても、資格要件のない社内の機関だけで、預金残高の水増しや架空債権といった手口を発見することは容易ではありません。「監査役がいる」ことと「決算書の信頼性が外部専門家によって検証されている」ことは、明確に区別して考える必要があります。

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