会計監査のゴールは「意見」を表明すること

会計監査(財務諸表監査)とは、会社が作成した財務諸表が、会計基準に従って重要な点において適正に表示されているかについて、独立した監査人が意見を表明する仕組みです。

ここで押さえておきたいのは、監査人は財務諸表を「作る」立場ではなく、経営者が作った財務諸表を「確かめる」立場だということです。財務諸表を作成する責任は経営者にあり、監査人はその内容に重要な誤り(虚偽表示)がないかについて、合理的な保証を得たうえで意見を述べます。「合理的な保証」とは絶対的な保証ではなく、高いが絶対ではない水準の保証という意味です。

では、監査人は具体的に何を確かめているのでしょうか。その答えが「アサーション」です。

アサーション(監査要点)とは

アサーション(assertion)とは、財務諸表の数値や注記事項に含まれる経営者の明示的または暗黙の主張を指します。監査人は、こうした主張について、どの点を検証するかを「監査要点」として捉えます。

たとえば貸借対照表に「売掛金 1億円」と記載されていれば、経営者は次のようなことを主張していることになります。

  • その売掛金は本当に存在する(実在性)
  • 会社が回収する権利を持っている(権利と義務)
  • 計上すべき売掛金はすべて計上されている(網羅性)
  • 回収可能な金額で評価されている(評価)
  • 売上などの関連取引が正しい会計期間に計上され、期末残高にも適切に反映されている(期間帰属・期間配分)
  • 適切な科目・区分で表示され、必要な注記がされている(分類・表示)

監査人は、こうした主張の一つひとつが正しいかどうかを、監査証拠に基づいて確かめていきます。監査基準も、実在性、網羅性、権利と義務の帰属、評価の妥当性、期間配分の適切性、表示の妥当性等の監査要点を設定し、これに適合した十分かつ適切な監査証拠を入手することを求めています。

日本公認会計士協会の監査基準報告書315では、アサーションを「監査対象期間の取引種類と会計事象及び関連する注記事項」と「期末の勘定残高及び関連する注記事項」に分けて整理しています。取引側では「発生」「網羅性」「正確性」「期間帰属」など、残高側では「実在性」「権利と義務」「網羅性」「正確性、評価と期間配分」などが中心です。注記事項についても、記載漏れや表示の妥当性を確かめます。初心者は「本当にあるか」「漏れはないか」「金額は正しいか」「正しい期・正しい場所に載っているか」という視点から捉えると理解しやすくなります。

例:売掛金1億円の「何が問題か」で手続は変わる

架空の売掛金が疑われるなら実在性を確かめるために取引先への確認や出荷証憑の調査を行います。回収不能が疑われるなら評価を確かめるために滞留状況・回収実績・相手先の信用状況を調べます。売上の前倒しが疑われるなら期間帰属を確かめるために期末日前後の契約・出荷・検収時点を検討します。

すべてを同じ深さで見るわけではない — リスク・アプローチ

上場企業の取引は膨大で、監査人がすべての取引を一件ずつ確かめることは現実的ではありません。そこで採用されているのがリスク・アプローチです。

リスク・アプローチとは、重要な虚偽表示が生じやすい箇所を見極め、そこに監査の手間を集中させる考え方です。監査リスク(誤った意見を表明してしまうリスク)は、おおまかに次のように分解されます。

監査リスク = 重要な虚偽表示リスク × 発見リスク

重要な虚偽表示リスクは、監査前の財務諸表に重要な虚偽表示が生じるリスクで、「固有リスク」と「統制リスク」に分けて考えます。監査人は、事業環境や内部統制を理解してこのリスクを評価し、高いと判断した領域ほど監査手続の種類・実施時期・範囲を調整して発見リスクを低く抑え、監査リスクを許容可能な低い水準にします。

補足:内部統制と実証手続

監査人は内部統制を理解し、必要に応じて運用状況を検証します(運用評価手続)。これと、残高確認や証憑突合などの実証手続を組み合わせます。内部統制が整備されていても、監査人が重要な勘定科目について実証手続をまったく行わなくてよい、という意味ではありません。

このとき、どのアサーションでリスクが高いかを特定することが監査計画の出発点になります。例えば、業績目標が厳しい会社では売上取引の「発生」(架空売上)や「期間帰属」(前倒し計上)のリスクが高まり得ます。一方、費用の計上を遅らせる誘因がある場合には、負債の「網羅性」(計上漏れ)が論点になります。なお、売上などの取引に対する「発生」と、売掛金などの期末残高に対する「実在性」は区別して用います。

あわせて、監査人は重要性も考慮します。財務諸表利用者の判断に影響を与えない程度の小さな誤りまで追いかけるのではなく、利用者の判断を誤らせるほどの誤りを見逃さないことに焦点を当てるのです。

アサーションを確かめる道具 — 主な監査手続

監査人がアサーションを確かめるために用いる代表的な監査手続には、次のようなものがあります。

  • 確認:銀行や取引先などの第三者に、残高や取引内容を直接問い合わせて回答を得る手続。外部から得られるため証拠力が高いとされます。
  • 実査:現金、有価証券、固定資産などを監査人が実際に目で見て確かめる手続。
  • 記録や文書の閲覧:契約書、請求書、議事録などを確かめる手続。
  • 再計算:減価償却費や利息などの計算の正確性を、監査人が自ら計算して確かめる手続。

再実施:本来は会社の担当者や内部統制が実施する承認・照合等の手続を、監査人が独立してやり直す手続。計算のやり直しを意味する再計算とは区別します。

  • 分析的手続:前期比較や比率分析などで、財務数値の異常な動きを把握する手続。
  • 観察・質問:業務の実施状況を見たり、担当者に質問したりする手続。質問だけでは十分な証拠にならないため、他の手続と組み合わせて用います。

重要なのは、手続とアサーションがセットで選ばれる点です。同じ「売掛金の確認」でも、主に確かめられるのは残高の実在性などであり、取引の経済的実態や回収可能性(評価)を確認だけで十分に裏付けられるわけではありません。監査人は、確かめたい主張と入手した証拠の限界を踏まえて、複数の手続を組み合わせます。

監査対応で役立つ「資料の出し方」

監査人から残高明細の依頼があったら、合計額が総勘定元帳と一致するよう照合し、対象期間・作成日時・抽出条件を明示します。証憑を提出するときは、契約・請求・検収・入出金の流れを追える形にしておくと、追加質問を減らしやすくなります。

監査を受ける側にとっての意味

アサーションの考え方を知っておくと、監査人からの質問や資料依頼の意図が読み取りやすくなります。「なぜこの資料が必要なのか」が分かれば、監査対応の効率は大きく上がり、社内の決算プロセスの弱点にも気づきやすくなります。

本シリーズでは続く回で、資産の監査で確かめるアサーション、負債の監査で確かめるアサーションを、具体的な勘定科目に沿って解説します。

関連記事: 【監査の基礎】資産の監査で確かめるアサーション / 【監査の基礎】負債の監査で確かめるアサーション

参考資料: 日本公認会計士協会「会計・監査用語かんたん解説集:監査要点(アサーション)」 https://jicpa.or.jp/cpainfo/introduction/keyword/post-59.html 同「監査実務指針等」(監査基準報告書315・500等) https://jicpa.or.jp/specialized_field/publication/kansa/

SMASH国際監査法人のサポート

「初めて会計監査を受けるが、何から準備すべきか分からない」「海外親会社から監査済み財務諸表の提出を求められた」といった場合には、監査の目的や必要資料を早めに確認しておくことが大切です。SMASH国際監査法人では、外資系企業や非上場企業を中心に、会社法監査、任意監査、グループ監査に関連する業務などを提供しています。監査の実施や監査法人の選定に関するご相談は、お気軽にお寄せください。

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