英文開示が「義務」になった今、問われるのは質です。
2025年4月、東証プライム市場の上場企業に英文開示が義務化されました。決算短信や適時開示情報を、日本語と同時に英語でも公表することが求められるようになったのです。猶予申請をしていた企業も、2026年4月——つまり今月——をもって全社適用となっています。
「いまさら?」と感じる方もいるかもしれません。英文開示の必要性自体はずっと以前から指摘されてきました。では、なぜ制度化がここまで遅れたのでしょうか。
答えはシンプルで、海外投資家の不満が限界に達したからです。JPX(日本取引所グループ)の調査(2026年1月公表)によれば、プライム企業の英文開示に対して72%の海外投資家が「不満」または「やや不満」と回答しています。情報量が少ない、タイミングが遅い、中小型株はほぼ対応していない——という三点が主な不満でした。コーポレートガバナンス改革やPBR改善要請と同じ文脈で、「情報の非対称性をなくせ」という圧力がついに制度を動かした形です。
JPXの直近調査では、プライム市場での決算短信の英文開示実施率は99.6%、適時開示資料に至っては96.8%とほぼすべてのプライム上場企業において英文開示がされており、日英同時開示についても決算短信は96.4%、適時開示資料は95.4%と2025年4月から開始された日英同時開示の努力目標が達成されてきています。一方で、英文開示”範囲”となると決算短信は57.9%、適時開示資料は81.3%となりプライム上場企業における英文開示には改善の余地が見られます。参考に、有価証券報告書に至っては全文を英文開示しているプライム上場企業は10.4%に留まっています。
対応が進まない背景には、ルールの「緩さ」もあります。英文開示は日本語の「参考訳」という位置づけで、翻訳の正確性は規則違反の対象になりません。一部・概要のみでも規則上はOKです。形式さえ整えれば最低限クリアできてしまいます。
しかしここが落とし穴です。英文開示は翻訳作業ではありません。何を、どの粒度で、どう表現して海外投資家に伝えるか——これはIRコミュニケーションそのものであり、財務・開示に対する深い理解なしには成り立ちません。「参考訳だから正確性は問われない」という発想は、むしろ企業の信頼を損なうリスクをはらんでいます。
参考までに、米国市場(NasdaqやNYSE)に上場する外国企業はSECに対してForm 20-FやForm 6-Kを英語で正式提出する義務を負っています。これらは法的効力を持つ書類であり、内容の正確性に対する責任も厳しく問われます。東証の英文開示義務化はその水準からすればまだ入口ですが、日本企業が国際資本市場で存在感を高めるには、「英語でも同じ情報を、同じタイミングで」届けるという姿勢が出発点になります。
. 日米の開示制度の比較
「参考訳」に留まる日本の現状と、法的責任を伴う米国市場の違いを整理しました。
| 項目 | 日本(東証プライム) | 米国(Nasdaq/NYSE 外国企業) |
| 主な提出書類 | 決算短信、適時開示資料 | Form 20-F, Form 6-K |
| 法的性質 | 日本語資料の「参考訳」 | 公式な提出書類 |
| 正確性への責任 | 規則違反の対象外(努力義務に近い) | 厳格な法的責任を負う |
| 開示の範囲 | 一部・概要のみでも可 | 原則として全文・詳細 |
今後は義務化の対象がプライム市場以外へ拡大されること、有価証券報告書等への対象書類の拡大も検討されています。英文開示は他人事ではありません。形式的な対応で終わらせず、開示の「質」を問い直すタイミングが来ています。
英文開示への対応は、翻訳会社に丸投げするだけでも、社内で形式だけ整えるだけでも不十分です。開示内容の選別から表現の適切さまで、特に決算短信や有価証券報告書などの財務・会計的な専門用語が多く入る書類では財務・開示の専門家が関与することで初めて「伝わる英文開示」が実現します。
今後のトレンドとしては、プライム上場企業だけでなくその他スタンダードやグロース市場においても英文開示の義務化や同時開示へのニーズやガイドラインが発効されても不思議ではありません。海外投資家や海外展開を目指す企業におかれましても、早期に英文開示への対応を進めていくことが望まれます。
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執筆者:英文開示担当(公認会計士)
