突然の「Audited Financial Statementsをください」
外資系企業の日本法人や海外取引の多い会社では、ある日、海外親会社や投資家から「Audited Financial Statementsを提出してほしい」と依頼されることがあります。日本では法定監査の対象でない会社でも、グループ連結、資金調達、M&A、取引開始、ライセンス契約などをきっかけに、第三者による財務情報の確認を求められることは珍しくありません。
ここで最初に確認したいのは、「監査が必要」という言葉だけでは、必要な業務が決まらないという点です。相手が本当に必要としているのは、財務諸表全体に対する監査意見なのか、親会社のグループ監査人向けの報告なのか、特定項目だけの確認結果なのか。目的を整理せずに監査法人へ依頼すると、必要以上の手続になったり、逆に相手が求める報告書を出せなかったりします。
まず「何のための報告書か」を確認する
| 依頼の背景 | 考えられる業務 | 主な報告先 | ポイント |
| 海外親会社の連結決算 | リファーラル/コンポーネント監査 | 親会社のグループ監査人 | 監査指示書、グループ重要性、報告期限への対応 |
| 海外投資家・金融機関への提出 | 任意の財務諸表監査 | 投資家、銀行、株主等 | 財務報告の枠組みと監査報告書の利用目的を明確化 |
| 特定の売上・在庫・契約だけ確認 | AUP(合意された手続) | 依頼者・合意した利用者 | 監査意見は出さず、実施した手続と事実を報告 |
| 日本の会社法上の大会社等 | 会社法監査 | 株主・会社等 | 海外向け監査とは別に法定要件を確認 |
確認① 誰が、その報告書を使うのか
最初の質問は「報告書を誰が使うのか」です。海外親会社の監査人が使うのか、銀行が融資審査に使うのか、投資家が投資判断に使うのかで、必要な業務は変わります。特にグループ監査では、親会社の監査人から日本の監査人へ監査指示書が送られ、実施すべき手続や報告期限が指定されることがあります。一方、第三者への提出を目的とする任意監査では、会社自身の財務諸表に対して独立監査人の監査報告書を発行する形が一般的です。
確認② 何の会計基準で財務諸表を作るのか
日本法人だからといって、常に日本基準の財務諸表を監査すればよいとは限りません。親会社の連結目的であれば、IFRSやUS GAAPに合わせたReporting Packageが対象になることがあります。海外投資家向けでも、契約で特定の会計基準が指定される場合があります。「日本の決算書を英訳すれば終わり」と考えるのではなく、相手が必要とする財務報告の枠組みを最初に確認する必要があります。
確認③ どの監査基準・指示に従うのか
国際的なグループ監査では、ISA 600(改訂)などを背景として、グループ監査人とコンポーネント監査人の双方向コミュニケーション、指揮・監督・レビューが重視されています。日本子会社側の監査人が単独で「いつもの監査」をすればよいわけではなく、グループ監査人のリスク評価、重要性、指定手続、報告様式に合わせて進める必要があります。
確認④ 英語の報告書は「日本語版の翻訳」ではない
英文監査報告書には、適用した財務報告の枠組み、監査基準、経営者と監査人の責任、監査意見などが記載されます。報告書の利用目的や基準が違えば、必要な文言も変わります。そのため、「日本語の監査報告書を最後に英訳してほしい」という依頼では対応できないケースがあります。最初から英文報告を前提に、財務諸表・監査手続・報告様式を設計する方がスムーズです。
確認⑤ 監査を始める時期と、初年度特有の論点
初めて監査を受ける会社では、期首残高、過年度数値、棚卸資産、売掛金・買掛金、固定資産、契約書など、通常年度以上に準備が必要になります。とくに棚卸立会などは、期末を過ぎてから「監査が必要だった」と分かっても、同じ条件でやり直せない手続があります。海外側の締切は日本の法定決算より早いことも多いため、監査法人の選定は決算後ではなく、可能であれば期中に行うのが安全です。
参考:SMASH国際監査法人「各種監査」https://smash-international.com/service/audit/ / SMASH国際監査法人「AUP」https://smash-international.com/service/agreed-upon-procedures/ / IAASB「ISA 600 (Revised)」https://www.iaasb.org/publications/international-standard-auditing-600-revised-special-considerations-audits-group-financial-statements
海外から監査済み財務諸表を求められたときは、「監査を受けるかどうか」より先に、誰が・何のために・どの基準の情報を必要としているかを整理することが重要です。SMASH国際監査法人では、外資系企業・非上場企業を中心に、リファーラル監査、任意監査、会社法監査、AUP等に対応し、英文での監査報告書・実施結果報告書の発行にも対応しています。海外親会社や海外の関係者から監査を求められたものの、どの業務を依頼すべきか分からない段階からでもご相談いただけます。
執筆者:森 大輔(公認会計士・公認不正検査士)
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